JOURNAL ASIA

日本の高レベル放射性廃棄物のゆくえを追う

空母原子炉の構造安全性への疑問

元原発機器設計技術者である岡本氏が書いた「空母原子炉の構造安全性への疑問」と題された意見書をもとに、原子力空母の原子炉の“構造”という観点からされた考察を読み解いて自分なりにまとめてみた。

※岡田氏の資料のまとめをまとめた訳ではありません。

cf. 資料読んで改めて先日の東京新聞のとある記者さんが書いた記事のポイントの押さえ方に関心した。

(→米軍再編日米同盟の素顔 第7部<3> 司法に問う原子力空母配備 安全保障に踏み込めるか【東京新聞】2008年1月4日)



【結論導入】



●ファクトシートの記述[P2] - 「重力の50倍以上の戦闘衝撃負荷に耐えることができる。これは、合衆国の商業用原子力発電所の設計に際して用いられる地震衝撃負荷の10倍以上である。」 - には様々な問題点、注意点がある。あたかも50G以上の戦闘における衝撃にも船体自体が耐えられるかのような云い方で、読み手に誤解を招く恐れが十二分にあり、また意図的にそう仕向けているようにも思える。



●実際のところ、“50G以上の戦闘における衝撃にも船体自体が耐えられる”強度なのではなく、また如何に改善されているのかは非公開であるが故に、第三者がその安全性を検証することが出来ない。



●地震大国日本にとって地震は独自のものであり、米国の商業用原子炉の規格をベースに、加えて「輸送及び取り扱い時の荷重に対して6Gの荷重で著しい変形が生じないこと」という構造設計基準を引き合いに出し比較して、「10倍以上」の強度であり、“戦闘において頑丈”だと説明するのは合理的でない。



●商業用原子炉と比較した場合、空母の原子炉が「頑丈」であるのは当然であり、必要条件としては解るが、それによって、安全性を説明出来るものではない。



●改良されたという技術は勿論、原子炉システムの基本仕様の大部分が非公開。

第三者が検証しようにも、必要な基本情報ですら非公開。



●この状況下で日本政府がファクトシートを根拠に安全性を主張する場合は以下の問題点に明確に回答すべき。







空母の原子炉(想像図)





【考察】



「燃料体設計」「燃料の形状」「出力」3つの構造的観点からファクトシートの記述が持つ問題点を指摘

それぞれの記述の問題点を指摘すると同時に、どう問題なのか紐解く。





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主な指摘ファクトシート記述箇所2カ所





1)「重力の50倍以上の戦闘衝撃負荷に耐えることができる。これは、合衆国の商業用原子力発電所の設計に際して用いられる地震衝撃負荷の10倍以上である。」[P2]



2)「合衆国海軍の原子炉の燃料は、固体金属である。」[P2]



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記述1)「重力の50倍以上の戦闘衝撃負荷に耐えることができる。これは、合衆国の商業用原子力発電所の設計に際して用いられる地震衝撃負荷の10倍以上である。」[P2]





【問題点】





●あくまでも船体そのものの強度ではない

●2種類の「衝撃荷重」を混同させている。





【3種類の「荷重」】(以下岡本氏PPより引用)

●衝撃荷重

 ・短い間(1/10,000~1/100秒)に荷重が作用

 ・極めて大きな力になる

 ・部分的な変形で力が吸収される

●地震荷重

 ・周期性を持つ荷重

 ・共振すると大きな変形が生じる

●静的荷重

 ・時間が経っても荷重の大きさは変わらない

              (引用部分以上)



【分かること/言えること】



◎「戦闘衝撃荷重」と「地震衝撃荷重」はそもそも別物で、比較されるべきものではない。

⇒<50Gは“地震衝撃荷重に比べ”10倍以上の強度だから“戦闘において”頑丈>と云えるのか。云えない。



◎「10倍以上」の元となっているのは「6G」という数値で、これは日本の原子力安全委員会の中の原子炉安全専門審査会「加圧水型原子炉に用いられる17行17列型の燃料集合体について」に「輸送及び取扱い時の荷重に対して、6G(Gは重力加速度を示す)の荷重で著しい変形が生じないこと」と定められている構造設計基準(参照:[PDF]「加圧水型原子炉に用いられる17行17列型の燃料集合体について」)に依り、「10倍以上」の強度とされていると考えられる。

→※「輸送及び取扱い時の荷重」は「地震衝撃荷重」に対する設計基準ではない。

⇒「地震衝撃荷重の10倍以上である」とするのは合理的でない。



◎地震大国の日本に対し、米国の商業用原子炉の規格を基に「10倍以上」(比較の問題点に関しては既述)とするのは、適切ではない。



→原子力発電の基準は通常ほぼ米国の規格を元にして作られるが、「耐震設計基準」が例外として設けられている位である。



(※しかし「核原料物質・核燃料物質及び原子炉の規制に関わる法律」第23条において、外国原子力船の立ち入り許可申請は、「軍艦を除く」となっており、これに基づき、日本の安全審査は行われない。)





◎前提の船体自身の強度でなはいことがもたらす懸念:

座礁時は、「戦闘衝撃荷重」でも「地震衝撃荷重」でもない別の作用を船体に及ぼす。

→この時かかる荷重は重力そのものに過ぎないが、消えてなくなることはなく、自身の重量を船底の接触面で支えなければならない。[静的荷重にあたる]

それに関しての記述はされていない。



◎地震はいつでも起きる状況であるということは専門家の間では一致して警告されている以上、浮上している原子炉だから地震時の危険性は考慮する必要がない、とは云えない。





記述2)「合衆国海軍の原子炉の燃料は、固体金属である。」[P2]





【問題点】





●まず「固体金属」だからといって特別なのでもなく、それだけで安全性の根拠にはならない。

まして、「固体金属」の燃料であるが故に「戦闘の衝撃に耐えられる」と読むべきではない。誤解を招く記述である。

●「固体金属である」以上のことには触れられていない。





【それらが意味すること/ポイント】





◎原子炉起動時の温度上昇が原子炉圧力容器の板厚内の温度分布にどの程度影響するのか、検証するにも計算に必要な条件 - 形状、材料の物性値、境界 - が明らかにされていないため、第三者が正確に検証出来ない。

自身で条件部分を設定してみるしかない。



◎応力もその温度分布に依るので、正確に検証しかねる。

ただ立ち上げ時間が速くなれば、条件も厳しくなる。

(「温度分布」と云っても実際は前述の「板厚内」のみならず、ノズル、フランジ、構造の不連続部分にはもっと複雑な温度分布が発生することを注意しておく。)



◎安全性を示したければ、米国が行ったであろう解析的検討の結果に基づいて、解析で求めた応力と、その応力の想定される繰り返し回数が規格に定められている許容限界をいかに満足しているか示さなくてはならない。

 



【その他 - 非公開部分に関して】





<形状>

●サンディエゴの原子力空母母港化における環境影響評価書(以下EIS)添付資料では「固体金属」の燃料は「板状」であることが分かった。

●「円筒状」ではないのは何故か。

⇒高さがとれない狭い炉心で、燃料から最大の熱量を取り出せるように、強度より、性能を重視したことが分かる。





<出力>

EISの記述に依ると、

「日常的に急速出力変更が可能な設計」でありまた、「1分で最大出力に達することができる」としていることが意味すること/及ぼす影響を考えてみる。





1分で立ち上げると・・・

●温度分布:板の平均温度と内面の温度との差は約10倍違う。⇒応力が10倍違う。

●熱応力が高くても直ぐに壊れることはないが、繰り返し掛かることにより、疲労破壊の原因になる。




【結】




ファクトシートの記述、また記述、明記されていないことから、指摘されるべき多くの問題点があるにも関わらず、日本政府、横須賀市長がその安全性を立証していないファクトシートを根拠に安全性を主張するのであれば、それらの点に回答、説明すべきである。


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