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JOURNAL ASIA

日本の高レベル放射性廃棄物のゆくえを追う

マイナンバー(共通番号)違憲訴訟@神奈川、名古屋判決について

マイナンバー(個人番号)違憲訴訟を巡っては、昨年9月26日(木)に神奈川で初めて裁判所の判断が下され、12月27日(金)に名古屋で一審判決が続いたわけだが、どうにも怒りが収まらない。

判決内容はもとより、私達よりも先に判決趣旨、判決全文も手にしていたであろうマスコミが中身もろくに論じることなく、「住民敗訴」「欠陥、不備ない」等と見出しを打ち、ほとんどが結論をほんの一部載せただけの記事が散見したのは実に情けない。そして、ミスリーディングを招く結論のみの垂れ流しは、本当に許せない。(「名古屋地裁は原告の請求を棄却した」とだけ記し、判決内容にすら触れていない記事もあり論外。)

マスコミはせめて争点がどう争われたのか、なぜ裁判所が「正当な行政目的の範囲を超え、個人情報が利用される危険があるとは言えない」(共同記述)とし、どういう論理で「原告らの権利や利益を侵害するとは言えない」(時事通信社記述)結論に導いたのか、多少なりとも論じるべき。

プライバシー権の保障範囲に関しては、過去に、自己情報コントロール権を侵害するとして住民票コードの削除を求めた、住民基本台帳ネットワークシステム(以下「住基ネット」)を巡る最高裁判決(2008年3月6日)が示していた、個人に関する情報をみだりに「第三者に開示又は公表されない自由」から、
神奈川でも名古屋でも差はあるものの、情報社会が進み、また、個人番号や特定個人番号というその秘匿性を鑑みて、憲法上保障されるべき範囲を広げた判断を引き出している。(※後述するが、それにも関わらず、違憲性の判断基準を「開示又は公表」にとどめてしまい、11年前の判決と結果として事実上踏み出さない判断を下したことが問題であり、課題なのである。)

また、神奈川に関して言えば、原告・弁護団は目的論、住基ネットにおける最高裁判決をはじめ、これまでの最高裁判決を踏まえた憲法論(プライバシー権)、個人番号及び特定個人情報の秘匿性、厳格な違憲審査基準の必要性(制度運用によって達成される行政目的の正当性、プライバシーを侵害しても達成すべき必要性に対する厳格な審査の必要性。もし、プライバシーや住民の平穏な生活を侵害するものであるならば、実現手段として合理性はなく、プライバシー権の侵害と認められる。)、法制度上及び情報連携におけるシステム上の保護措置の問題点、番号制度の構造上の欠陥、個人番号付き特別源泉徴収税額通知書等の誤送付、個人番号通知カード・個人番号カード・個人番号記載書類等の紛失・誤廃棄・盗難、誤発送・誤送付、個人番号の不正取得・悪用、違法再委託等大規模大量情報漏洩の事例、個人情報保護委員会の機能不全等々、丁寧かつ緻密に立証してきた。

これらを踏まえた上で、なぜ、「開示又は公表」される具体的危険性はない(「開示又は公表」されなければプライバシー権の侵害とは言えない)と、事実上11年前の保障範囲から広げることなく、「違憲とは言えない」という判断に至ったのか。今回の訴訟で裁判所が下した判断は、結論のみならず、一つひとつ丁寧に紐解かれて然るべきである。

神奈川一審判決文名古屋一審判決文
読めば、いかに番号制度は「違憲とは言えない」という答えに導くために、かなり無理をして理屈を立てたかよく分かる。神奈川一審判決はプライバシー権、自己の意思に反して個人に関する情報を情報ネットワークシステムに接続されない自由について一応に考え、苦しんだ跡が垣間みられるが、名古屋一審判決は考えた跡も見られず、かなり形式的な判断だけで安易に蹴ってしまっている印象だ。しかし、いずれにしても、個人的には、裁判所が単に「形式的」であるとか「忖度」したとか言うというよりも、あえて番号制度の本質を捉えない判断をしているところには悪質ささえを感じ、末恐ろしい。


マスコミが機能していないことも大いにあり、本来伝えられるべき内容が伝わりきれていない気がしてならない。この闘いで、争点がどのように争われ、ひいては、私達がなぜ番号制度は違憲であると主張しているのか、いかに現在に番号制度が見切り発車をしているか、これほど秘匿性の高い情報を運用する側が、いかに基本的人権という概念に欠けているかということを知ってほしいという思いから、昨年末の名古屋一審判決が出て以降、法律や番号制度の専門家ではないながら、自分なりに整理をしてみた。不勉強なところも多分にあり、判決の読み方に誤りがあるやもしれないことは先に断っておく。

《いつもお世話になっている皆様へ》
というわけで、お陰様で、延々パソコンに向かっていたため年末年始という概念を持つことなく、年を越えていました。ステキな新年のご挨拶もできる気がしない(すでに遅い)ので、こちらを挨拶に代えさせていただけたら幸いです。


↑怒り心頭のため前段が長くなってしまった・・
↓↓本文から読みたい方はココから読んでください↓↓


あえて番号制度の本質を捉えようとしない
現実からかけ離れた、歪んだ(歪ませた)理屈


まず、「個人番号自体が,個人のプライバシーに属する情報を含むものではない」と個人番号と個人情報を切り離していることが不合理だ。12桁の個人番号単体ではプライバシーを含む個人情報は分からないとするが、個人番号だけが一人歩きするはずもなく、個人情報とセットで取り扱われているわけで。(カードの表面だけが落ちたり見られたりするわけもなく、また、行政書類や行政手続き上も誰々=何番と処理されるわけで、個人番号単体で取り扱うということはないわけで・・。)

さらに、個人番号と結び付けられる個人情報も番号制度の導入前から各行政機関等で収集、保有、管理、利用等されていた情報で、番号制度導入によって新たに行政機関等が収集、保有、管理、利用等できるようになったわけではない、などと国の主張を追随している。つまり、<個人情報は番号制度によって初めて収集、保有、管理、利用等されるわけではなく、もともと収集,保有,管理,利用等なされていたものだから問題ないんだ>という理屈を展開しているが、これも事実とはまったく違う。


新たに導入される「社会保障・税番号制度」
(いわゆる「マイナンバー制度」。ここでは「番号制度」とする。)によって成立する個人番号(いわゆる「マイナンバー」)と年金、健康保険、所得税、雇用保険等の個人情報を紐づけ、情報ネットワークを通じて情報連携させるという、全く新たな基盤のための収集、保有、管理、利用であり、これこそが番号制度の根幹だ。まして、紐付けられていることと、他の行政機関等外部に提供されることは全く別の話。

破綻した行政目的と、
個人の尊厳を蔑ろにした裁判所の認識

番号制度の目的とされる①行政運営の効率化、 ②行政分野における公正な給付と負担の確保、③利便性の向上についても争ってきた。原告側はそれらの目的が実現できるのか実態に踏み込んだ判断を再三求めてきたが、一応に判断をしているものの、言葉面だけの表面的な判断にとどまってしまっている。

例えば、神奈川で言うと、原告側は、

「行政運営の効率」については、経費(コスト)においても事務負担においても、「行政運営の効率」どころか相当大きな負担を課せられている実態
果たして、費用対効果はなされているのか。ランニングコストも含め、相当な費用をかけているが、実際それほどの効果を出せていないこと。特に「マイナンバーカード」が普及せず、利用範囲の拡大に躍起になっている中で、毎年莫大な予算が計上されている実情。(しかし、これに対して行政効果や経済効果の根拠とされているのは、いずれも番号法制定前に、番号制度の推進派が同制度を実現するために試算した資料(「共通番号」導入の経済効果試算結果/わたしたち生活者のための「共通番号」推進協議会、「マイナンバー制度の効果」/第64回高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部では導入にかかるセキュリティ費用や導入事務にかかる地方自治体の過大な負担等、番号制度により当然生じるコストには全く触れられておらず、番号制度の効果を客観的に分析したものとは到底言えないこと当初予定していた“効果”に、現に到達していない事実
社会保障給付とは必ずしも結びつかず、むしろ現在の社会保障費抑制・削減の大きな政策の下では、社会保障の充実については極めて厳しい見通しとなっていること
「公正な給付と負担の確保」が目的とされたのは、国会審議に至ってからで、社会保障の充実に必要な制度が未だ立法化されていないこと(「税・社会保障番号制度」の立法過程において、同制度の目的の性格が、政権交代等の時代の変化に伴って、変容してきた。民主党政権下で低所得者等弱者対策のための「《給付のための》番号制度」が提案され、再び番号制度に関する議論が始まった。しかし、自公政権に変わると、同制度の目的は「国民の利便性の向上」のみとされ、「公正な給付と負担の確保」については規定すらされていなかった。また、過去に番号制度に類似した共通番号制度が議論になっても、国民理解を得られず頓挫してきたが、住基ネット等の分野別の番号制度は順次導入され、各分野における「行政運営の効率化」は図られていて、あえて番号制度導入する必要がある緊迫した状況ではない。)等など

内実に踏み込んだ主張をし、
目的そのものが破綻していること、プライバシーへの強度の介入を許容できる目的ということは到底できないこと
を明らかにしてきた。

しかし、裁判所は、こうした各自治体や行政機関が強いられている負担の実態等には目を背けたまま、政府が言っているような利便性のみに着眼、採用して、<だから、国民にとって、便利になるのは明らか>と断言。さらに、<番号制度は将来にわたって長期継続的に行政運営の効率化を実現するための社会基盤となる制度。
大規模な制度を導入するわけだから初期投資がかかるのは仕方がないし、長期的に見れば、初期投資がかかっただけで費用対効果がないと決めつけることはできない。制度導入から間もない時期に、その制度を活用する具体的立法がなされていないからと言って直ちに立法事実を欠くものではない。>などとして、簡単に目的を正当化してしまっている。

要するに<予算の制約によって社会保障充実に限界があるとしても、いや、限界があるからこそ、担税力のある者に適切に税負担を求め、社会保障を必要な人に対して適切な給付ができるようになるから、この制度は必要なんだし、長い目でみようよ。立法化はこれからされていくんじゃないかな〜>と言っている。

現在の番号制度について、経済効果試算等の議論がなされるようになった構想当初から、およそ10年経とうとしている今。ここにきてまさかの<まぁ、長い目で見ようよ>。それを検証できるだけの時間は十分経っている。こんな風にあり得ない理屈で、莫大な税金を投じる運用を許容されてしまっている(またそれを裁判所が後押ししている)ことをぜひ知ってほしい。

また、ここで目を疑ったのは、神奈川一審判決でも名古屋一審判決でも、裁判所は<公正な給付と負担の確保という目的は広く国民に負担を求めることを前提とし、そのために番号制度の実施を望まない国民も含め、広く国民参加を要する制度とすること自体不合理とは言えず、むしろ国会多数決を基本とする憲法上の民主主義の下では、そのような少数反対者の存在は想定されていたこと。その存在から直ちに番号利用法ないし番号制度の目的の正当性は否定されるものではない。>などと法を司る裁判所とは思えないようなことまでわざわざ述べている。

*・・・   余談  ・・・*
目的論に限らず、素人目に見ても、明らかに原告・弁護団の立証し尽くし、詰んでいるのに、国がろくに反論、立証もしていない制度に対して、裁判所が許容するどころか、「予算の制約により社会保障の充実に限界があったとしても、公正な給付と負担の確保を実現することには十分な意義がある」とまでゴリ押ししてしまう現実を目の当たりにし、世も末だと途方に暮れそうな気持ちになる。また、「意義がある」という言葉がどうも引っかかる。番号制度は生存する個人を対象とし、かなりの数になるわけで、少なくともそうした枠組みの中では、その「意義」(価値と言ってもいい)が対象とされる人々にも共有できなければ、「意義」なんて見出せない。独りよがりの「意義」、価値の押し売りには吐き気さえする。)

ついでに言うと、私が最も不快に感じたのは、神奈川訴訟において主張した性同一障害者、ペンネーム使用者、ストーカー被害者等の危険性に対して、国が示した最初の反論内容だ:
そもそも,原告らが,性同一性障害者,作家,芸能人,DV被害者,ストーカー被害者等を支援する弁護士,政府要人,防衛産業の技術者,自衛隊関係者であることの主張・立証は何らされていないし,原告らの個人番号の収集,保存,利用及び提供によって原告らがいう危険が具体的に発生することの主張・立証も何らされていない。また,原告らは,いかなる手続きにおいていかなる情報を開示する必要があったのか,また,それが番号制度の導入によってどのように取扱いが異なることとなるのかについて何ら主張しておらず,極めて抽象的な危惧を述べるに過ぎない。
また、名古屋一審判決も類似した判断を示している。
現に,番号制度の運用開始以降,個人番号又は特定個人情報の漏えいに起因して,本人の情報が名寄せされる事態が発生したことを認めるに足りる証拠もない。

私達は名寄せ、突合をされても分からない。知る術もないのに、よくもこんなことを言うなと怒りが込み上げる。発覚した時にはすでに被害が起きてしまっているかもしれず、被害が出てからでは遅すぎる。また、個人番号の取扱い者による不正取得、悪用による被害実態について、原告側は事例を多々挙げてきた。「事故事例」と言っているが、そこには、自宅への侵入やつきまとい等があったり、離婚歴を漏えいされたりしているという「被害」を受けた人達がいるわけで、どうしてそれを無視したまま、制度の運用を認められるのだろう。


番号法違反で逮捕者も出ている中、番号制度が稼働し、こうした個人番号に起因する犯罪の発生する可能性が絶たない中での生活を強いられること自体、平穏な生活を守られているとは決して言えない。(取扱い従事者の制限など成し得ていない。)


何より、<被害者に出て証言しろ>というような二次加害さながらの言葉を平気で口にできてしまうような政府にだけは絶対にこの制度の運用はなされたくないと改めて感じた。

*・・・余談終わり・・・*

基本的人権の根幹を揺るがす
番号制度が目指す国民分類・選別の基盤構築
 
そもそも、なぜ番号制度を導入し、個人番号と個人情報を紐づける必要があるのか? それは、プロファイリングによって国民等の選別、分類、等級化、優遇、制限、排除等を実現しうるシステム(基盤)を構築し、社会保障費給付の削減等を実現したいからに他ならない。

実際、番号制度において個人データとして処理される個人情報は、当初番号法で3分野(税、社会保障、災害対策)とされていた。しかし、見直し時期とされる施行3年後を待たず、施行前の2015年に法改正(cf. 番号法法改正の概要資料/内閣府)をし、情報連携の対象は広げ、現在では、①社会保障分野(年金に関する相談・照会)、②税分野(申告書、法定調書等への記載)、③災害対策分野(被災者台帳の作成)だけでなく、④医療機関(病院・通院歴に関する情報)、⑤金融機関(銀行預金・所得に関する情報)との連携が予定されている
。このように、すでに利用範囲の拡大をしようとしている以上、多種多様な個人情報を名寄せ、データマッチングし、個人の趣味嗜好や生活スタイル等人物像を作り出す「プロファイリング」に使われる可能性は増している。

こうした目的、機能が前提の制度であり、基本的人権の根幹を揺るがす問題であるからこそ、私達は勝手に収集、保有、管理、利用等するなと主張し、「情報ネットワークシステムに接続されない自由」が憲法上保障されていると言っている。まさにこれこそがこの裁判の要と言っていい。

「詭弁」では済まない「法制度上又はシステム上不備によるものではない」という理屈
今、機能していない現実を直視しなければ、無法地帯化を免れない

しかし、裁判所は、<個人番号や特定個人情報が「漏えいしたり,目的外利用されたりした場合は個人の私生活又はプライバシーが侵害される危険性がある」とそれらの秘匿性の高さを認めているにも関わらず、番号制度の法制度上又はシステム上不備のせいで、個人情報又は特定個人情報が法令等の根拠に基づかずに又は正当な行政目的の範囲を逸脱して収集、保有、開示又は公開される具体的な危険があるとは言えないし、個人番号と紐づけられた個人情報の漏えいは、番号制度開始前から同じような過誤等によってあったのだから、番号制度の不備によるものじゃない。名寄せ、突合の可能性はあるため要検討だが、システム上防止する仕組みがとられているし、漏えいした場合に直ちに被害が生じないような法制度上の措置も講じられているから具体的な危険があるとは言えない。よって、原告らの言うような権利侵害はあるとはいえない>と結論づけた。

つまり、番号法で行政目的や提供可能な範囲が限定され、罰則や第三者委員会を設けていること(単に番号法があるっていうだけのこと)や、システム上、漏えい防止措置が取られていることだけを以て情報漏洩や目的外利用がないとしてしまっている。

しかし、《実際にそれらが機能しているか?》(していない)ということが問題だ。
それにも関わらず、誤発送や誤送付、不正取得・悪用、違法再委託は番号制度そのものの不備に起因せず「専ら人為的なミス(過失)又は不正(故意)」(国の主張の追随)などと、一職員等一個人の責任に矮小化し、許容してしまっていることは大きな問題である。(名古屋一審判決の場合、不正取得、その他特定個人情報の漏えい事例はスルーしている。)

とりわけ、裁判所自らが、<番号法が行政目的や提供可能な範囲が限定され、罰則や第三者委員会を設けている、だから情報漏洩や目的外利用はないんだ>と言っている一方で、実際に番号法が取り扱いを制限しているはずの職員によって不正取得・悪用が行われたり、番号法が禁止している再委託が起きたりしたことについては、「専ら人為的にミス(過失)又は不正(故意)」だと言って、番号制度の不備が原因じゃないなどと許容してしまうのは、自己矛盾も甚だしい。

この点、神奈川訴訟では、事故事例をはじめ、とりわけ判決でも情報漏えいが起きない根拠とされる「個人情報保護委員会」の保護措置が極めて不十分で、機能不全に陥っていることについてはかなり力を入れて主張してきた。そのため、神奈川一審判決は、さすがに無視できず、そうした「措置によっても,個人番号及び特定個人情報の漏えいを完全に防ぐことが困難であることは否定できない」と言及している。

また、裁判の最中にも、違法な再委託が230万件以上発覚するという、大規模大量漏えい事件が起きている。分かっているだけでも、年金情報、国税庁が保有する税金情報、各自治体が保有している源泉徴収データ、個人番号を含む個人情報のデータ等が流出したというもので、一部国外に渡っており、未だに誰の情報が流出しているか分かっていない。

裁判所は、個人情報保護委員会の設置されていることを根拠の一つとして(形式的に)挙げているが、問題なのは、番号法が予定している権限行使ができる担保がきちんとできているのかどうか、適切な指導、監督をしたのかと言うと、していないに等しい。

個人情報保護委員会が、違法な再委託を防止できなかった日本年金機構に対しとった措置は、「指導」(乙第43号証の1)のみで、その指導の内容も、責任をもって請け負うという緊張感を持つこと、危機管理に関する意識改革を引き続き行うこと、特定個人情報の適正な取り扱いに向けた取り組みを継続的に実施すること、ということだけだった。

ここで問題視しなければならないのは、個人情報保護委員会の指導、勧告、勧告に従われなかったら場合に初めて罰則が適応されるという仕組みだということ。前述のように、まともな指導をされていないということは、罰則を適応される前提がないということになる。罰則の前提とされる「指導、監督」がきちんとなされているか、機能しているか(現実的に機能していない実態)が極めて重要になってくる。だから、「罰則」と いう仕組みがあるということだけを以て、保護措置がとられているとは到底言えないにも関わらず、法制度上そうした仕組みを備えているから、という実態を無視した判断をしている。

神奈川一審判決について、神奈川訴訟弁護団代表の小賀坂弁護士は、判決後の記者会見で
次のように述べ、控訴審で争う姿勢を見せた。

「裁判所は、個人番号と個人情報がくっついた番号制度の本質というものを《あえて》無視して、番号は番号、情報は情報とし、(それらの個人情報は)今までもあったものなので、新たな問題が発生したものではない。この点については、明らかに論理的に破綻している。番号と個人情報が結びついた特定個人情報というものだからこそ、それ自体に多大な危険性があるので法律が厳密に管理しろと言っているのに、今までと情報と変わらないから問題ない、番号法に罪はないと逃げ、そこで大きな綻びが生まれてしまった。裁判所は、現実に起きている大量漏えい事件について踏み込んで判断をして、それでも『憲法違反ではない』と言うために、番号制度の本質から目を逸らし、破綻した理屈でしかそれを合理化できなかったことが、この判決の大きな弱点。これらは相当大きな問題点として、問題提起しなければならない。」

20190926_マイナンバー神奈川判決マイナンバー(共通番号)違憲訴訟@神奈川 記者会見&報告集会 2019.09.26. 筆者撮影

*・・・   余談  ・・・*
2017年7月29日、消費者の信用度を計算する米国の3大信用情報会社の一つとされる米信用情報機関大手Equifaxが、1億4000万人の機密情報が流出した事件があった。「漏洩したのは、氏名や社会保障番号、生年月日、住所、一部の運転免許証番号と、20万9000件近くのクレジットカード番号だ。さらに、18万2000件の『紛争文書』(本質的には不服の申し立てであり、個人を特定できるデータが含まれる)も漏洩の対象」となり、同年9月7日、同社は本件に係るデータ漏洩の影響は、米国の1億4300万人に及ぶ可能性があると発表。 9月26日付で会長兼CEOのリチャード・スミス氏が引責辞任した。

これは一企業の話で、不正アクセスによるものだったが、決して他人事ではない。システムを運用する企業のトップがその管理・保護責任を負い辞任を表明する中、日本では国が運用する大規模制度でさえ「起こりえない」、起こったとしても一職員の「過失」で、番号制度に限らず一般業務上も起こりうることとされ、トップは免責される。そういう意味でも、機微情報を運用や管理に対する意識の欠如を思い知らされる。

日本での違法再委託では、東京国税局及び大阪国税局から源泉徴収票や支払調書等の入力業務の委託を受けていたシステムズ・デザイン株式会社(受託業者)が2019年9月9日から2年6ヶ月間、競争参加資格の停止となっただけ。いわゆる“蜥蜴のしっぽ切り”(というか、それ以下)というのが実情だ。悪いのは受託者で、国税庁の責任ではないかのようなことで済まされてしまっている。本来は財務大臣の首が飛んでもおかしくない話だと思うが・・。

さらに不思議なのは、国税庁が「国税局と本件受託業者が実施した調査において、本件受託業者及び再委託先から外部へ特定個人情報が流出した痕跡は認められませんでした。」と、あたかも特定個人情報の流出がなかったかのような物言いをしているが、再委託自体がすでに特定個人情報の流出であることは強く言っておきたい。
*・・・余談終わり・・・*

個人情報は「開示又は公開」されなければいいのか。
私達一人ひとりの「プライバシー」に対する認識が問われるとき


神奈川一審判決では、「情報ネットワークへの接続の対象となる個人情報の内容,性質,特に個人のプライバシーとして秘匿が求められる程度は様々」で、「その性質に応じて,情報ネットワークシステムの制度ないし運用に対する要請の内容,程度にも様々なものが考えられる」。憲法13条がそうした「自己の意思に基づかずに情報ネットワークシステムに接続されない自由を,あらゆる場合を通じて一律に保障していると解することは困難であり、個人に関する情報の接続が、当該個人の意思に反し可能とされていることから直ちに、番号利用法ないし番号制度が憲法13条に反するものと解することはできない」とし一応に苦しみ滲む言及をしている。

これに対し、名古屋一審判決では「番号制度の運用によって,みだりに個人に関する情報の収集,保有,開示又は公表が行われる具体的な危険」のある脆弱なシステムではないから、情報ネットワー クシステムに接続されない自由が侵害されるという原告の主張は「前提を欠き理由がないことが明らか」と片付けてしまっている。(それを言うなら、「個人番号自体が,個人のプライバシーに属する情報を含むものではない」として、個人番号と個人情報を切り離して考えていることのほうがよっぽど前提を欠いていると言いたい。)

名古屋一審判決では、現代の情報通信技術発の急速な進歩を踏まえ、憲法13条は「みだりに個人に関する情報の「“収集,保有,開示又は公表”されない自由を有するものと解される」とし、従来の住基ネット最高裁判決の「開示又は公開されない自由」からは収集,保有を加えていること、住基ネットで取り扱われる本人確認情報と比較して、個人番号や特定個人情報が漏えいしたり、目的外利用されたりした場合のリスクが高いことを認めている。それにも関わらず、原告の利益侵害の判断基準を開示又は公表にとどめてしまっている。

神奈川一審判決では憲法13条と自己情報コントロール権について直接的な言及はなかったが、憲法13条は個人情報の「《収集、保有、管理、利用等の過程で》みだりに第三者に開示又は公表されない自由をもその内容に含むものと解するのが相当」とし、従来の住基ネット最高裁判決の「開示又は公開されない自由」より広げた判断を引き出している。しかし、私達が言ってきたのは、 私達の意思に反して勝手に収集、保有、管理、利用等するな(まさにプライバシー権に反する)と主張しているわけだが、神奈川一審判決も本質的には「開示又は公表」されないからいい、というところにとどまってしまったという点で、住基ネット最高裁と変わることがなかった。この点は、当然、控訴審でも追求し続けなければならない大きな課題だ。

番号制度導入の意味、番号制度がもたらす社会を
私達自身が正しく理解する重要性


番号制度によってもたらされようとしていることを正しく理解すれば、私達の主張している自己の意思に反して「情報ネットワークシステムに接続されない自由」は当然憲法上保障されて然るべきであるし、まして、第三者に「開示又は公開」されなければいいという次元では済むものではないこと、むしろ、いかに 「基本的人権」の根幹を揺るがす大問題であることは明白であり、私達はそのためにこの裁判で闘っている。

繰り返しになるが、番号制度において利用拡大を図っており、ゆくゆくは、医療情報(遺伝データ)、性、思想、民族、人種等の個人データを蓄積されかねない。プロファイリングの可能性については、専門家から指摘しているところのことである。だからこそ、私達自身が、番号制度導入が意味することをしっかり理解する必要がある。

最後に
冒頭、マスコミの報道に触れた。神奈川一審判決に関しては、これほど問題を抱え、無理をして導かれた判断であるにも関わらず、東京新聞は「マイナンバー合憲 初判断」とまで書いた。
「マイナンバー合憲」。そう書くことの意味を、ご自身でよくよく考えてほしい。あの判決文を読んでもなお、本当に番号制度が「合憲」だと言えるのか。「恥を知れ」と言いたい。

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《参考》
▷  資料室(最終更新:2019年10月10日)/マイナンバー(共通番号)違憲訴訟@神奈川
▷  マイナンバー訴訟関連文書と資料/共通番号いらないネット
▷  「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」(番号法)関係法令・ガイドライン内閣府
▷ 「1億4,300万人が被害を受けている『米エキファックス情報漏洩』の顛末」MAYUMI HIRAI, GALILEO訳, 2017.09.26.
 (原文)How to Protect Yourself From That Massive Equifax Breach, LILY HAY NEWMAN/WIRED 
  Equifax Faces Multibillion-Dollar Lawsuit Over Hack, Polly Mosendz, 2017.09.08./Bloomberg
「1億人以上の顧客情報を流出したEquifax、CEOが引責辞任」佐藤由紀子, 2017.09.27./ITmedia
▷ 「源泉徴収票等の入力業務の無断再委託事案について」2019年9月9/国税庁
▷ 「受託業務における契約及び法令違反のご報告とお詫び 」2018年12月14日システムズ・デザイン株式会社
「受託業務における契約及び法令違反のご報告とお詫び(開示事項の経過) 」2018年12月18日システムズ・デザイン株式会社
▷ 「(訂正)「受託業務における契約及び法令違反のご報告とお詫び(開示事項の経過)」の一部訂正に関するお知らせ」2018年12月19日システムズ・デザイン株式会社
▷ 「受託業務における契約及び法令違反の調査状況等について」2019年5月13日システムズ・デザイン株式会社
▷ 「受託業務における契約及び法令違反について①」「受託業務における契約及び法令違反について②」2019年6月4日/システムズ・デザイン株式会社2019年3月期決算説明会(日本証券アナリスト協会主催)
▷ 「受託業務における契約及び法令違反の概要報告および役員報酬の一部自主返上等について」2019年06月19日システムズ・デザイン株式会社 ※添付「データ入力業務の無断再委託問題に関する調査報告書(概要・開示版)」(←同社ウェブサイトからのリンクではありません。同社ウェブサイト上では同リリース文書は閲覧できない状態??)

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